001 妖精の女王さま ビリー著 (『水晶』から。藤間改訳) それは、バラ色の水晶からでてきた、世にも美しい妖精との、夢の世界での八回目の旅でした。私は夢うつつの中で、ことごとに酔い知れ、青とバラ色に染まる銀色の霧のようなベールに包まれて、心の底まで幸福でした。楽園の美しい音楽の調和と愛に満ちたメロディがあたりに響く中、かすかで柔らかい霧のベール越しに、銀色と金色に輝くきらめきに取り巻かれて空中にただよう美しい妖精が遠くに見えました。 妖精は、しびれるほど美しく、陶酔するような調和した音楽と共に漂うようにやってきて、私の肩をやさしく撫で、そっとささやきました。『いらっしゃい。今日は妖精の国にあなたを連れていきます。あなたは女王さまの賓客であり、女王さまが話す沢山の素晴らしいことを聞くはずです。あなたはその話しを地球の人々に伝え、人々はその話しから多くのこと、を学びます』と。 こうして、バラ色の水晶からでてきた美しい妖精との八回目の、夢の世界への旅が始まった、のでした。それは驚くべきものでした : 妖精が私の肩に触れ、この言葉を言うやいなや、私は柔らかくたちこめる霧の層を、深く、深く滑り降りたようでした。現実の粗い世界に存在するすべてのものが私の周りから消え失せ、何もなくなってしまいました。そのことは、私を喜ばせました。何故なら、人間に絶えず重く不快に感じられ、悲しく途方に暮れさせる、苛酷で、圧倒する重さの悲しみや問題が絶えずこの世を切り裂いているからです。この理由から、今、妖精の女王さまのところに行けることを喜んだのでした。女王さまは私に沢山の話をしてくれるのでしょう。美しい妖精が私に命じたように、私がその話をしてあげれば、多くの地球の人々が救われるのでしょう。 こうして、私は一面にたちこめる多彩な霧のベールを通って、深く深く沈んでいきました。すべての私の感受性、感覚、知覚は穏やかに軽やかになって行き、すぐに心に喜びが湧いてきました。更に深く滑り降りていくと、間もなく、いろいろな様相をもった世界を見ました。いたるところでやさしい芳香と共に、調和のとれた音楽が最も深い愛の調べで私を包みこみました。突然沈む速さが変わりましたが、少しも不安はありませんでした。何故なら、湧き上がる霧のベールに包まれて、まるで愛する母の懐に抱かれているように感じていたからでした。調和のとれたメロディはすべてを揺り動かし、洪水のように湧き立つ愛に満ちたシンフォニーの確かな嵐へと高まっていきました。 それは私をとらえ、私の最も内なるところまでが、すべての永遠の喜びに満たされるように、最高の幸福と平和に満ち満ちたのでした。私が美しい妖精のささやきから知ったように、幸福と平和の情感に満たされる必要があったのでした。何故なら、最高の真の愛、最高の内部の幸福と平和に満たされた、このようなバランスのとれた状態でのみ、妖精の国に行き、それを見、その声を聞き、その言葉を理解することが可能になるからなのです。 幸福と愛と平和に満たされたささやきが私の内部に入ってくると、急降下が次第に緩やかになり、フンワリと美しいおとぎ話の世界の地に舞い降りたのでした。そこは辺り一面銀色の星屑がまばたくように輝き、この世のものとは思えない程美しく明るい光がさしていました。景色は言いようもなく雄大で、魅力的で、辺りには鐘の音のような明るく心を酔わせる旋律が流れていました。それは今まで一度も聞いたことがない愛と調和の響きに満ちていました。私はどんなに夢のように、この調べに聞きいったことでしょう。 一体どこからその調べが流れでてくるのかと私は探し求めました。すると、小さく美しい妖精が、まったく可愛らしい透明な羽をつけて、言葉では言い表せないほどの美しさをもって、草木や灌木の花々の周りを飛んでいるのに気付きました。目の届く限りの田畑がその美しい花々に包まれていました。ずっと彼方に、明るく輝く太陽が高い山の上にあって、その山の上に立つ銀色のお城をまぶしいほどキラキラと輝かせていました。 『あれが妖精の女王さまのお城』と言う妖精のひとりごとを聞きました。『もう、女王さまが、あなたを出迎えるために、こちらにやってきます』。本当にずっと遠くから妖精の女王さまが飛んでくるのがはっきりと見えました。女王さまはまったく可愛らしく可憐で、二つの手のひらの長さを合わせた位の大きさでした。妖精の女王さまは光輝くように愛らしく、魅力的な美しさをもっていました。そのため、私は金色に輝く岩の上に場所をとり座らねばなりませんでした。しかし、もう女王さまはすぐそばまで来て、私は女王さまの優雅な声を聞きました。『私が座れるように、あなたの手のひらを広げて私に差しのべて下さい』。 私は言葉を失い、完全な幸福感と喜びをもって妖精の女王さまの望みに従いました。私は右肘を膝の上に置き、心地よいソファーになるように手のひらを広げ、指を半分折りまげてあげました。今や美しく魅力的な妖精の女王さまは私の手の中にいます。女王さまは明らかに心地よく感じていました。一方、私の心は以前にもまして、言い知れず筆舌につくせない幸福と愛の感情で溢れました。それから、愛らしく、か弱く、柔和で愛に満たされた女王さまは、私に語りました。その声は鈴の音のように優雅で、最高に澄んだ調和と永遠の旋律を奏でるように響きました。 『あなたは、私達の国に招待された初めての人です。あなたの後には、もう誰もこの善と喜びを知る人はいないでしょう。あなたがこの幸福を許されたのは、私達があなたを何も恐れることがなく、あなたに咎める点が何もないからです。ですから、私達はあなたをここに呼びました。また、あなたが私の言葉に注意深く耳を傾けることができるからでもあります。あなたは私の言葉を地球の人々に教えなければなりません。さあ、これから私が話すことを良くおききなさい』 妖精の女王さまの言葉が終わるやいなや、私は女王さまの愛に満ちた許しをえて素晴らしい国に迎えられた愛に満ちたもてなしに対して、感謝の言葉を言おうとしたのですが、その言葉が何と軽々しく邪悪な言葉に思えたことでしょう。私の声はまるで容赦なく全てを破壊する雷鳴のように響いたのでした。私は初めの二言目で驚いて、思わず口を閉じてしまいました。それからできるだけ小さな声でささやこうとしましたが、それでも私の声はいたずらに響き渡り、雷鳴のように聞こえました。 その後、私は自然と黙りこむよう努力しました。私は自分の雷鳴で妖精の女王さまやその国を驚かせたくなかったからです。妖精の女王さまは更に話を続けました。そして、声のことで心配した私を笑いました。 『心配しなくてもよいです。最愛の地球人さま。本当にあなたの声は雷鳴のように響きますが、それはとても良く響き、言葉は真心と愛をもっています。ですから、あなたの声は私達を傷つけることはありません。それにあなたの声は、私達の国の、調和のとれた喜びの響きと旋律に変化しています。ですから、あなたの言葉に私は感謝しているのです。さて、あなたを信頼して打ち明けることを良く聞いてください。あなたはそれを、私達の世界から遠く離れた惑星に住んでいる地球の人々に伝えるのです。地球人は、全宇宙で創造と呼ばれている全能の法則と掟に、ほとんど従っていません。地球の人々に次のことを語ってあげてください。 地球人よ、野や湖に咲くユリの花をごらんなさい。それはどんなに華やかにすくすくと成長して花を咲かせていることでしょう。私はあなたに言いますが、地球人は一度だって、この美しいユリの花ほどに美しく着飾ったことがあったでしょうか。地球人よ、一度注意深く素晴らしいユリの華やかさを観察してごらんなさい。そして一度、花咲くすべての自然の美しい華麗さを注意してごらんなさい。自然は、その完全な光景を通して、創造の愛、善、知恵の持つ偉大さを教えています。それは人間が語ることよりもずっと素晴らしいものを教えているのです。地球人の中でどんなに粗暴で、ものごとに無関心な人でも、この自然の持つ不思議な創造の国の光景に真に触れねばなりません。 こうして生きた生物である私が絶えず再生している自然のあらゆる壮麗さを完全に享受し、今作用している創造の華麗さに驚嘆しているように、その魅力を認め、完全にそれに魅せられなければなないのです。すべての地球人が一人一人真剣に、創造されたものを見て、理解して、認識する努力さえすれば、私達と同じように自然を享受し驚嘆することができるのです。最も小さい創造されたものを見るだけでも、どんなにか教えられることでしょう。自然の美を真に観察して得られるものは、なんと純粋で清らかなものでしょう。それは不思議な創造の働きをなし、趣のある環境での生活にとって、なんと素晴らしいことを教えてくれるでしょう。それは、私にとっても地球人にとっても同じであるに違いありません。 それは不思議な新しい力です。春の訪れとともに、その力は再び大地に、また地を這う動物や空を飛ぶ鳥などのすべてに流れ込みます。新鮮で新しい生命が広大な創造によって呼び起こされるのです。田園は一面に眼を喜ばす緑に輝き、色とりどりの草花は何千とその華麗な装飾を展開します。灌木や木は、その芽をふき、直ぐに花咲く大海を誇るのです。それらの花は風や蜂によって授粉し、やがて様々な実を結びます。これらの万事を素直に瞑想し観察すれば、それに無関心でいることができましょうか。 地球人は巡ってくる自然の美を観察するために、晴れた日には、どんなに喜び勇んで森に急ぐでしょうか。しかし、実際に森に急いで行くのですが、みんな結局は目明きのめくらになるのです。みんな、想像もできない創造の力が、どこで始まり、どこで終わるのかを知らないのです。無限の不思議である永遠のラビリンスに入ることを知らないのです。 永遠のラビリンスとは、人々に無造作に踏みにじられるような最も小さな雑草や、眼に見えない程小さい野の花が、すべての創造の力が所有する最高の知恵と愛と調和の証人になっているところなのです。 長い冬の数ヵ月、穀物の種子が雪や氷の下で眠っています。しかし、創造は知恵をもって予見し、雪や氷を通して大地に自然の暖かさを与え、種子の内部に生きている生命が最も厳しい霜によって失われないようにしてあげているのです。 地上の誰一人、この種子をいたわることをしませんでした。しかし、それを造りだした創造は知恵をもって、その生命を、創造されたものの一つとして維持し管理しているのです。創造はどこに最も勝れた栄養分があり、発芽し、生育し、実るのに最も益となる肥沃な場所があるのかを知っています。 荒れ狂う嵐が地上に吹きまくり、古いカシの大木を根こそぎにし、船を大海の深淵に沈めたりしますが、眼に見えるこの種子には触れず、その場所にそっとしておいてあげるのです。或いはそこが生育に相応しくない土地ならば、それを地から掘り起こし、よりよい場所に運んでいくのです。 測りしれない創造の力の持つ摂理が、見たところつまらない植物の小さな種子をもいたわっているのならば、どうして創造が地球人を忘れることができるでしょうか。 どうして、人間は先のことを心配して心を痛めるのでしょうか。どうして、すべてを養う創造の責任に対する信頼が薄らぐのでしょうか。何故、地球人は真理を認識せず、自分の欲、物質主義と権力欲を知り、それで一生終わるのでしょうか。 そもそもは、そこから戦争や他の数え切れない数の犯罪を起こし、他のすべての生命にそれを吹き掛けているのです。一体、理性と言う贈り物を与えられ、思考できる地球人は、創造による“最高の創造の冠”であるにもかかわらず、本当に野の花のほんの小さな種子よりも価値のないものなのでしょうか。創造から生み出された、数えきれない被造物の内、ほんの微少な物すら忘れていない創造を地球人だけが何故忘れることができるのでしょうか。 どんな種子でも、たとえそれがあまりにも微少なものであっても、その性質は非常に不思議なものです。それは白い粉のような核があり、外皮、内皮を持ち、それらが核を包み保護しています。壊れやすい核を外部からのあらゆる危険から守る、粗く堅い外皮の他に、その外皮と核の間にはまだ薄くて繊細な皮層があります。そうして堅い外皮が核に直接触れないようになっています。 愛に満ちた母親も、そのように生まれたばかりの赤ん坊をたくさんの布で包み、赤ん坊を外からの影響と障害の危険からまもります。その時、母親はまず第一に最も軟らかい布を赤ん坊の肌につけ、きめの粗い布を外に着せます。こうして優しい母親が赤ん坊をいたわるように、創造もすべての被造物をいたわるのです。そして真実、自然に於ける最も微少なものへの創造の配慮は人の母親がかつて為し実行した配慮の何百万倍も優れて偉大なものです。 ただ一つのクルミ、リンゴ、またはミカンの創造、芽生え、発育、結実だけでも、どんなに配慮がなされていることでしょう。数えきれないほど多く生存している地球人の内、一体どれだけの人がありふれた植物の微少な種子の生命と健全な発育のために創造が与えたほどの配慮と愛を、自分の子供とその生命のために与えているでしょうか。 人々の眼には見過ごされそうな見えないほど微少な種子に対する創造のいたわりを、一度でも人はしたことがあるでしょうか。地球人よ、そのことを一度考えてみてください。 私は地球人にいくつかの重要な事柄を更に説明するために、微少な種子の核について、もっと詳細に見てみたいと思います。小さな核の中にまったく小さく繊細な点が見られます。それは少し突き出ていますが、その中に本来の生命が含まれています。これは種子の心臓部で、真の胚芽なのです。そこから植物が成長していきます。それは目立たぬ花、茎、あるいは巨大なカシの木になる初源の基なのです。種子の流動核そのものは、ただ一つの新しい皮層を形成しているのが見られます。それは本来の心臓部を保護し、心髄が芽生え、まだ皮穀が落ちるまでの、まだほんの小さい根茎や枝葉をつけている時の養分になるものです。芽はその養分をえて、生育と生命のための養素や呼吸のための酸素と窒素を大地と大気から吸収します。従って、若い芽にとって小さな核の成分は最初の母乳と同じなのです。 何と素晴らしく多様で無限で賢明な創造の配慮が、この小さな種子にさえなされ、最も細部に至るまで、最後の精密な機能まで誤りなく、十分に思案されていることでしょう。これを見ただけでも、すでに測りしれない創造の愛とその周到さが分かります。そうした愛と配慮をもって、創造は宇宙、全世界、惑星、生命体に、その見逃すことのできない力を行使しています。 このようにして、創造の尊厳にみちた偉大さは啓示され、その前では、星さえも畏敬にみちた敬意を払います。ほんの小さな目立たない種子もそうします。春がやってきて、太陽の陽射しが雪溶けの大地を暖めると、大切に保存されていた種子の芽は吹き出し、養分をえて膨れ上がります。そして芽をとざしていた殻が弾け、そこから芽が伸びだしてくるのです。か弱い芽が核を膨れ上がらせるほどに成長する力には、驚くべき価値があり、巨大な力といえます。 この尋常ではない力は一体どこからやってくるのでしょうか。この莫大な力は、どのようにして生じ、小さな植物の芽のなかで、どのように内在しているのでしょうか。また、春がきたことをしっかり確かめるまで、その力が目覚めないのは何故なのでしょうか。 まことに、地球人がこのことを深く考えれば、いつかきっと、そこに創造自身がもつ、汲めども尽きない確実な摂理を知るでしょう。 また次のことも人々は考えて見なければなりません。一体、地球の最高の芸術家、最高に偉大な支配者の誰かが、かつてそのような種子を創りだしたことがあったでしょうか。最も小さい被造物においても、創造の力そのものは一体どのような成分であり、また無限に偉大であるのでしょうか。つかのまの観察では、地上の広がった被造物のすべてにおける無限の不思議さ一つを認識するのにも、人間の限られた寿命では不十分です。種子での純粋に物質的、物理的な力の展開過程は、地球の科学による認識でも説明されているのは事実です。 しかし、その根本に根差している創造的構成と創造的発達の事実は今でも地球人には謎であり、秘密のままです。種子が芽を吹き出す、その巨大な力が、一体どこからやってくるのかが説明されていないのです。先程言いましたように、種子が物質的に成長していく物理的、生物的方法が解明され、その種子に名称が付けられているのがせいぜいです。しかし、この穀物の種子はどのように名付けられるのでしょうか。 広い宇宙にある、数えきれない世界のことはさておき、そのような種子は何百万、そのまた何百万倍の数が蒔かれて授粉します。種子はその一つとして同じ種子ではありません。それらはすべて徹底的に異なる大きさ、形態、重さ、構造、味等をもっています。異なる種子は嵐によって母体から適当な場所に運ばれ、大地に沈み、そこで発芽します。これらの種子は翼をもっているのです。その翼は蜂の翼との多くの類似点を見出だせます。この翼によって種子は運ばれ、嵐とともに空中に舞い、ある一定の定められた場所に辿り着くのです。 例えばモミの木はそんな種子をもっています。風がその種子をもっと遠く離れた木の茂らない不毛な地へと運んでいきます。他の木の種子は、直接木の下の大地に落ちます。何故なら、それは冬の間、暖かい覆いを必要とするからです。秋に落ちた母木の葉があるために、冬の間も大地が凍ることがありません。春が訪れると鳥や四つ足の動物がやってきて、これらの種子を食べ尽くします。害虫や草も一緒に食べられます。その際、多くの種子は消化されずに、そのまま動物たちにより、次の排便ではきだされます。種子の核はいずれも特別な一定の道を辿るのです。それは生まれた場所から遠くに運ばれ、核が再び必要とするどこかの豊かな土地に運び移されるのです。そこで核は発芽し、成長できます それぞれ発芽し、授粉に相応しく成熟した植物は、いずれも毎年絶えず莫大な量の種子を生み出します。このようにして、地上の植物世界は、もし地球人がこれを故意に破壊しなければ、絶えず生育を続けます。例えば、カシの木は一年間に非常に多くの種子を生み出し、もしすべての種子が肥沃な土地をみつけて成長すれば、それで大きな森ができるほどです。ドングリの実、つまりカシの実や種子は、他の多くの種子と同じように様々な動物の食糧として役にたっています。< 一方、人間も種子を集め、それからコーヒーや様々な食品をつくっています。ですから、カシの木から落とされたドングリの種子で、保護されて成長に必要な肥沃な土地に辿りつくのはほんのわずかなものです。このことによって、全部の地がカシの木のみで埋まってしまうことからまぬがれているのです。ですから、ここでも創造は知恵を働かせて、他のすべての被造物においても、決して多すぎたり、少なすぎたりすることがないように配慮しています。植物、動物、果実、種子等々の過剰部分は、いつも人間、動物、植物、昆虫等々に再び食糧として役立っています。 こうして自然は、人間、動物、鳥、昆虫、植物に豊かな養分を振り撒いているのです。また魚や地上のすべての虫に対しても同様です。一つとして絶えたものはかつてありません。何故なら、毎年成長するすべての植物、灌木、木の豊かに実った種子のもっとも小さな一部ですら、全地を緑と花咲く植物、き、灌木で覆うには十分だからです。そして創造はいかに偉大な力に満ちていることでしょう しかしながら、地球人はこれを見ていないのです。人はそのことを理解もせず、全自然に対して無秩序をもたらしたのです。人は自然のありのままの生命とその生きるプロセスを妨害し、破壊さえしたのです。こうして今日、あらゆる種類の植物や、あらゆる種類の動物が人間の責任にきされるものに病んでいるのです。あるいは既に人間の手によって絶滅しているか、絶滅寸前になっています。 何故なら、できるだけ創造の法則と掟に従って生きようとする大きな責任感と義務感を見につけている地球人は、ほんの一握りでしかないからです。大部分の地球人は、創造に反して生き、創造を軽視し、拒絶し、礼拝宗教による誤りに陥り、誤った法則や掟を描いています。ほんのささいなものに見える種子の総合構成が、思考力のある人間のすべてに驚きの眼を開かせるのに十分になった時に初めて種子の胚の持つ生命を正しく扱うことができるのです。 種子の胚の生命とは何でしょうか。それは胚種に潜む霊的なものを言います。何故なら、それ(生命)は胚種を養い、胚種を取り囲む核の中にある牛乳状の養分から、まったく正しい時間に呼びだされるように進入してくるからです。胚種の先端は、やわらかな大地に穴を開け、そこから養分を吸い上げます。胚種の下部からゆっくりと小さな繊維が芽をだしてきます。これも同様にゆっくりと大地に這い出し、そこに張り付きます。この繊維はそこでみつけた養分により、次第に定着していき、成長し、やがて根になるのです。根は必要な養分を大地から力一杯吸収し、急速に成長した植物に必要なエネルギー源を補給するのです。 では、胚種はどうやって地中の養分をみつけるのでしょうか。またどうして、そこに繊細な繊維状の根をはらねばならないことを知っているのでしょうか。何も見えない胚種は、どのようにして大地とその上に差し込む太陽の光の存在を知っているのでしょうか。それでも、胚種の先端は、絶え間なく地を掘り起こし、ついには地上に這出し、世の光を仰ぐのです。それから、胚種の先端の全部がすべて下方に向かって屈曲して再び地中にくい込んでいきます。そして初めてその先端から根が這出すのです。茎や葉になるように定められている胚種の先端が別に成長し、それは大地に逆らい天に向かって成長し、光と空気のある方向に更に傾きます。 宇宙の真空にただよう星、その他宇宙のあらゆる惑星を動かしている力と同様に、説明しがたい創造の不思議な力が万有に存在しているのに、地球人はどうしてそれを見て認識しないのでしょうか。 最も意味のない雑草の胚種やめだたない草の胚種の発芽の真の初源の力をきわめ、解明することに関心をもてば、それは地球人を認識の限界へと導きます。二一世紀に近付いているのに、洞察力がある地球人にさえ、この胚種を導き成長を呼ぶものが何であるか解明できない謎になっています。この地球人に未知なものは、その解明をさせません。植物の根だけをみても、それらは無限に多様に異なっています。根は異なる植物のすべてについています。ここでも完全に新しい謎が地球人に課されています 若干の根は、茎と等しい直根となり、それは大地に斜めに食い込んだ支柱のように地中を突き固めています。そして本来の植物や高く突き出る樹木に嵐の猛威に耐えられる確実な安定性を提供しています。一方、他の植物、潅木、木々の根全体は、地上の表面に平らに広がり、あまり深くない地面に華々しく生き生きと繁殖できるようになっています。その根は空洞や管状になっており、他の根は虫類や動物や魚類のもつ鱗に似た鱗片をもっています。更に髪の毛のような繊維状の根をもつものもあり、多肉質のもの、空洞なもの、石のように堅いもの、または海綿状のものもなど様々です。これら根の多くが食糧として人間や動物の役にたっています。 しかし、誰が植物や木々や灌木の根が地下で営む多様なものごとのすべてを数えることができるでしょうか。誰にもできません。未だ地球人は一人としてできません。 この驚嘆に値する創造による、地下での根の不思議な営みを真に考えている地球人も僅かしかいません。地下から新しい不思議で壮麗な花が咲く時に、創造の不思議を観察する地球人もなんと少ないことでしょう。 いずれの動物もその本性に従い、まったく特殊な餌を求めて自らを養っているように、あらゆる植物の種子もその食べ物を地中または地上に捜しています。それは種子に適切に定められた食べ物です。母なる大地のふところの内部や、その上には植物、人間、動物のすべてに役立つ多様な成分と食べ物が眠っています。最も知識があり賢い人間ですら、それらを互いに区分することはできません。 しかし、完全に盲目な植物の根がそれを吸収する先端部をもち、それを発見できるのです。そしてそれは、地球人の普遍性のない洞察と見解を嘲笑っています。地上ではしばしば素晴らしい植物が唯一の場所に集まりますが、そのような無知な人間は、どうしてそれが同一の場所で繁殖するのか疑問に思うのです。ある植物層は沼や河川や小川の岸辺などの浅い水床に生育しますが、また別の植物は乾いた岩やかすかにコケの生えるような岩に、青々と茂って花を咲かせます。また、沼地のような湿地帯にのみ生育する植物もあれば、クレソンのように泉から湧きでる清く冷たい水辺にのみ理想的な成長の場所を見出だすものもあります。泥土や湿地で生育する植物もありますが、別の植物は枯れてしまいます。 ユキノシタのような草木は、岸壁のような不毛の土地にのみ根をはりますが、アブラナ科のような植物は深い土地を必要とします。これがあらゆる世界の地域、地帯により植物圏が異なる理由となっているのです。すなわち、いずれの土地も、その土地の自然の性質に相応しい、その土地に存在するすべての生命の役にたつ植物のみが生育しているのです。 このことは、地球人に必ずしも理解され認識されてはいません。ヤシの木は非常に暑い地帯や砂漠のオアシスで爽やかな実をつけ、ココナッツから非常に甘い汁を含むナツメを供給してくれています。一方、温暖な地域や寒い北の国では、リンゴ、ナシ、プラムのような種子ある果樹が成長します。それと並んで、主にモミ、トウヒ、ブナ、アカシヤ、ポプラ、ハンノキ、カシなどの巨大な森を形成する多くの有益な木々も成長しています。それらの森は、人間に暖房用の火となる木や家、納屋、橋、道具、車その他の多くのものを造る木材を供給してくれます。 しかし、地球人は、これらのすべての材木をまたその他の多くの樹木をいたずらに乱費し、多くの許されない不正を行い、全森林を犯し破壊してしまいました。そうして新しい文明の地を得ようとするのが目的で行った森の乱伐も、実際には数年で無益な土地と化したのでした。以前森だった土地は、大抵平均約三〇センチは腐蝕土であり、役に立たない土地だったからです。地球人はそのような土地から不毛の牧草地帯を造ろうとしているだけです。 また、地球人は役にたたなくなった土地を変形し、飛行機の滑走路を建設し、また道路やコンクリート造りの工場を建設しています。工場の煙突からは毒性の化学物質や煙がもうもうと排出され、それがまたもや創造がつくった多くの自然を破壊しているのです。人間に最も必要とされる草木や穀物は、いずれもどんな地域にも、どんな土壌にも容易に自然に慣れます。その為、様々な異なる穀物が世界中に見出だされます。しかし、人間にとっても多くの動物にとっても、生命に必要な自然食糧の生産に対しても、地球人はまたもや茶番劇を演じました。 つまり、穀物の大量栽培を試み、化学的影響や突然変異を起こさせ、自然な成長を植物から奪ったのでした。こうして秩序ある創造の知恵と大いなる無尽蔵な自然の営みである、総合的な秩序は地球人によって破壊され、一つの惑星のすべての場所で、あらゆる地域と生命体にとって必要なものを決して欠くことのない創造の法則が、地球人によって軽率にも破壊されてしまったのでした。この軽率さは地球人生命の持つ非理性によって、既に償いのできない犯罪に変化しています。 それはこの地球の人間自らによって強要されたものです。何故なら、彼等は宗教的矛盾によって、『行って産めよ、殖やせよ・・避妊はいずれも大罪である』と言うような自然に反することを主張し、巨大な人口過剰を生み出したからです。その為、地球人の数は増大し、地球が養うことのできる自然な人口五億人に対して、何倍も過剰になっています。それは次のような結果をもたらしました。地球の創造に適った自然生産は、既に二〇世紀の初頭に急速に増加した人口過剰に追いつけなくなり、地球人はゆっくりと確実に創造による自然を破壊せざるをえなくなったのです。地球人は化学的結合や分離や人工的突然変異によって新たな植物や食料品を生み出そうとしました。 その時、多くの場所で自然や土壌が突然変化し、たくさんの重要な昆虫や鳥、その他の動物が大量に殺戮され絶滅されました。地球人がその視線を創造的秩序に深く向ければ向けるほど、すべてを埋めつくしている崇高な創造の周到さが、より偉大で威力的なものに見えてくるはずなのです。種子とその発芽のために、どんなに数えきれぬほど多くの思考、準備、措置がそれを包括する創造によって必要とされたことでしょうか。また、生育と生命維持と食糧のために、どれだけ数多くの手段と方法がとられたことでしょうか。 しかしながら、すべてがあまりにも容易に単純に組み合わされているように見えるために、地球人は単純にそれを見落とし、注意も払わず、観察すらしていません。一度、人間は次のことを熟慮すべきです。 万事は、人間自らがすべての動物や植物と並んで、一つの地域に生活できるようになっているのです。ですから、人間による破壊や破滅の手が加えられさえしなければ、自然に相応しい真に素晴らしい豊饒さが、そこに存在するようになるのです。創造の法則と掟に従って必要な労働をなし、創造に適った義務が課せられ、その任務が評価される時に、生命体は決して欠乏しなくてすむのです。そして、一切が正しい環境になるのです。すべてのものは、その特殊性や特別な必要性に応じて、それぞれの生活ができるのです。 地球人が健康食品と不健康食品を区別できるように、動物もみな害になるものと健康と滋養になる草や木、その他の植物を分ける方法を知っています。また植物も人間の非理性によって突然変異のような誤ったことがなされなければ、地下の根は害ある食糧を良い食糧と分けることができ、生命維持に必要なもののみを吸収する術を知っています。しかし、根の周りの自然食糧は今日、地球人が非常に頻繁に死をもたらしている致命的な化学製品によって破壊されているために、根は致命的な毒を吸収せざるをえなくなっています。 植物の根が強く張るように、小さな植物は創造によって定められた摂理に従って種子になろうと力強く成長します。そうして、ある植物は岸壁や石にコケとなって茂り、他の植物は一晩でナシダダケや茸となって木陰に生育します。他の植物は地衣やアサガコに成長します。それは勢いよく木々に巻き付き、木の枝に巻毛のような細い繊維のつたをだし、風に吹かれています。また雑草や草となり、谷や平地や丘を飾るように定められ、他の植物の栄養になる植物もあります。 更に小さな植物も巨木になり、美味しそうな実を見事に結び、その大きな葉の一枚で密林に住むインディアンの小屋の屋根を覆うものもあります。このように植物は数多くあり、その種類は数えきれません。植物の根は何年も大地に生きつづけ、毎年、新鮮な草木を茂らせます。低い灌木の根茎からは数えきれないほどの木質の茎が何十本もつきでますが、それは決して樹木のような高さにはならず、その代わり、樹木の何倍も長く成長しつづけます。また高い幹をもつ樹木もあり、それは大抵、唯一本の幹をだしています。その樹木は広い平地に影をつくり、照りつける太陽の陽射しを防いでいます。それはしばしば何百年、何千年の樹齢をもつ木になります。 ヨーロッパだけを見ても、五〇〇年の樹齢をもつカシの木が知られています。その木陰は十二世代以上の人間が享受することができます。これに対して、アフリカにアダシソニアの木があり、セネガルの暖かい湿り気のある砂漠をもつ沿岸地帯に生育しています。その幹の太さはしばしば三〇メートルにもなり、十五メートル以上もある長い大枝や枝路を伸ばします。このアフリカの木の樹齢は、ほとんど五〇〇〇年にも及び、カシの木の樹齢はそれに比べれば、あっと言う間のはかなさです。しかし、このアシタソニアの樹齢を遥かに越える木がアメリカの山脈にあります。その曲がりくねった松の樹齢は、二万五千年にまで達しています。 こうした木の樹齢に比べて地球人の寿命はなんと言うはかなさでしょうか。地球人は百才を越える老齢の男女を見ただけで驚嘆しています。創造の自然におけるこの百年とは何を意味しているのでしょうか。カシの木やアダシソニアの木は何百年、何千年も経てから塵の中に埋もれ、アメリカに生育する屈曲した松は、一万五千年から二万五千年を経て枯れ、嵐によって引き裂かれます。しかし、それらの樹木は何百年、何千年、何万年と経っても完全にはなりませんでした。何故なら、その状態は何百年、何千年、何万年と経っても何十年しか経っていないものと同じであるからです。 人間は『創造の冠』と称されることを好みます。それらの樹木に比べ、人間は素晴らしい理解力をもち、進化の力を自由に扱い、母胎から生まれ出て、地上世界の自由を感じるやいなや、偉大な速度で進化に応じるのです。赤ん坊は次第に言語能力を身に付け、その内外の感覚によって周囲の物質的、精神的な表象世界を観察し自分の中に取り入れます。何故なら、人は愚かで思考力のない植物や 、単なる本能にとらわれた動物ではないからです。 人間の生活の一日は、植物や動物の何十万、何百万日にも相当します。何故なら、人間は創造の一部を自らの中に所有し、霊と更に理性や悟性と言う創造からの贈物をもつ物質意識を所有しているからです。それによって、人間は思考し、創造の永遠の摂理を認識します。人は植物と同じように、自分を包む物質的肉体と霊を区別します。物質的肉体は僅かの間生存し、老いると枯れて塵になります。しかしながら、新しい生命によって絶えず進化しつづける霊は、更に生きつづけます。これに対して、何千年も生育するアダシソニアの木、または何万年も山脈に生育する、曲がりくねった松の生命は、地球人の内に住む絶対不滅の霊に比べてはかない寿命です。それは、まことに無に等しく・・永遠における一瞬の時間にもみたないものです。この一万年にもなる樹木の生命は、カビの寿命に等しいものです。生かされるやいなや朽ち果てて塵となると言うことです。植物の名称、樹齢、その形態、色などは徹底的に異なっています。 多様に変化する植物の形態、葉、木目、その華やかに咲き誇る優雅で魅力的な形を、地球人の誰が数えることができるでしょうか。また、草花の素晴らしい色調を、自然とまったく同じように調合できる人がいるでしょうか。まったく異なる魅力的な自然の醸し出す緑の単純な相違すら模倣できる芸術家がいるでしょうか。全地球上の植物世界は緑に飾られ、華麗な衣を着ています。この自然と言う素晴らしい庭園の醸し出すビロードのような優しさとうっとりするような色とりどりに輝く色彩の、真珠のようなみずみずしさ、その壮麗な輝き、それらのすべてを模倣できる地球人はいるでしょうか。 それは、観察する生き物の眼を幸せにし、よろこばすものです。実は、筆舌に尽くしがたい美をもち、何千もの愛らしく華麗に咲く花々は、見る能力をもつ生命体・真の眼で認識できる生物のみに慰めと悦びを与えるのです。この見る能力をもつ眼は野に咲くもっとも小さくとるにたりない花も認識するのです。それは地球人にとっては、やっと発見できるもので、最も美しいランの花や、まだ咲ききらない華やかなバラと同じように、素晴らしい創造の能力、愛、完全さによる作品なのです。 まことに、創造はその創造物の内に秘められ、無限に華麗で、威厳があります。同じように被造物に示されている作品にも、またコウロギの鳴き声に耳を傾けても、ゴーゴーと落ちる滝、昆虫の私語、鳥たちの素晴らしく調和のとれたさえずりに注意してみても、そのことは言えます。野原で一体、誰のために花は咲くのでしょうか。花々が周期的に訪れる雨によって大きく伸び、あらん限りに美しく咲く時、それは誰のために、その細部における最高の規則性やまろやかな心地好い芳香と姿・・そして艶やかで鮮やかな色彩の優美さを誇示しているのでしょうか。それは決して人の眼にふれず、発見されることもなく、無思慮な旅人に折られることもありません。 それにもかかわらず、荒々しく荒れ狂う野の風の中でも、ひっそりと威厳のある創造の傑作として咲き誇っているのです。それは創造の初源から定められた、創造による無限で偉大な計画を満たす目的があるために咲き誇っているのです。人間の眼を楽しませ、人間に役に立つためにのみ、すべてが地上に存在しているのではありません。植物はいずれも人間の眼を楽しませ、薬や食糧として役にたたねばならないということではなく、その独特なそれ自体の意志のために存在しているのです。 その意志とは、全体の維持のための意志であり、無限である全体は最も微細なものの一つまで関連しているのです。春、夏、秋の大気をほのぼのとした良い香りで満たす草花の多様な香りのニュアンス、不思議な植物の呼吸としての芳香は、自然そのものの全体の構成と同様に、創造の不思議に属するものです。不思議な植物の芳香は、秘密に満ちた言葉で人間のプシケに語りかけ、心をひきつけますが、それは人間のもつ意識に応じる物質的な悟性によっては理解できません。 植物や草々の芳香、それはやはり創造による不思議な技で、人間の神経にあまりにも優しく素晴らしい方法で、その魅力を放っています。思考と感情のセンターが一緒になって、プシケ、または以前に述べたように魂、を形成していますが、それは人間を平和で好ましい調和的感情に導き、反感の感情を奪う作用をします。たとえ、それがしばしば、ほんの一瞬であっても、それは認知できるものです どこから、そしてどんな法則と掟により全ての植物や草花は、この芳香を迎え入れるのでしょうか。それは動物や昆虫、植物の世界でさえも、落ち着いた平和な雰囲気を生じさせています。芳香・・それは不思議で、不思議な働きをし、そのニュアンスを人間のどんな言葉でも説明できません。美しいバラ、ひっそり咲くスミレの花、高貴なカーネーションは、どのようにして、その魅惑的な香りをうるのでしょうか。人がそれをいたずらに分析しても、水、油、繊維、その他の植物成分以外のなにものをもみいだせません。 また、心を酔わせるほのぼのした芳香を漂わせますが、地球の最も著名な分析化学者ですら決して模倣することはできません。その芳香のもととなるものが何であるかも地球人にはまったく知られていません。しかし、蜂が草花の花粉から甘い蜂蜜やロウを作りあげる方法を知っているように、植物は空気と水、そして地球の化学者には知られていない草花の多くの部分から芳香を生み出す方法を知っているのです。それは人間や動物、昆虫、植物そのものさえを魅惑します。 なんと、素晴らしい全能の創造よ、あなたは、なんと地球人には測りしれない存在でありましょうか。地球人はあなたの最も大きな偉業、最も小さな偉業も、脈々と流れでるあなたの力のすべてを認識できないでいます。 私は妖精の女王として、周囲を観察することができます。いたるところで、不思議で無尽蔵な自然は、創造の尽きることのない尊厳さ、偉大さ、恩寵、知恵そして愛を讃えています。地球人は、如何にして創造のことを忘れられるのでしょうか。創造は決して地球人のことを忘れてはいませんのに。創造は地球人が生まれる最初の瞬間から、将来の最後の呼吸に至るまで地球人に配慮をしているのです どうして、地球人は創造を忘れ、それが不在だと悲しむことができましょうか。創造は、その絶対的な被造物のすべてを通して、最も大いなるものも小さきものも、人間を取り巻くその他一切のものを通して、その本質と崇高さを物語ってはいないでしょうか。地球人は創造を忘れてしまいました・・事実そうなってしまいました。人間は創造に不忠実になり、感謝もしなくなってしまいました。 それにもかかわらず、あらゆる創造の総合作品の中で、人間は最も素晴らしく崇高な本質なのです。それでも地球人は創造を否定しているのです。それでもやはり創造は、地球人を知っており、すべての内で最も偉大な崇高性を人間に与えているのです。地球人は自分を生かし、自分の中に住む崇高な霊の素性を、自分の狂気のために、まったく単純に忘れているのです。そしてまた、人間は自分の崇高な宿命も忘れています。そうして、人間は本能的な、動物的な、物質的な、地上的なものに執着し、塵ばかり見ているのです。そしてその塵の中を遍歴しながら生きているのです。自分の利益のことだけを心配し、自分の身体、食糧、激しい欲望、願望、享楽のことのみを考え、自分の虚栄心を満たしてくれるものすべてを身につけ働かせているのです。 とるにたらない植物が、いつかは枯れ萎んでいくように、大きな進化も遂げず、実も結ばない、底知れぬ大洋の塵となるような人生を人々は過ごしているのです。いえいえ、そのようにして、やっと露命をつないでいるような人生は、実は破壊を意味しているのです。 正にこのことを妖精の国の出身である私達は非常によく知っているのです。私達は地球上のあらゆる植物、花々、樹木、灌木、草花、その他の底知れない創造の不思議な自然の多様性を慈しみ、育み、監督しているのです。しかし、地球人の反創造的な行為が私達にたえず酷い頽廃と危機をもたらしています。私は妖精の女王として、創造の威力的な愛に満ちた地からと無限の奇跡にたいして、畏敬の念をもって接しています。創造はたえまなく、緑の森の黄昏の薄明りの中にその愛を啓示し、木々の梢は創造を讃える調和のとれたリズミカルな讃美をもって鳴り響きます。 そして私は風に揺れ、たわむれる野原や牧草地一面に咲く花を通して、創造の奇跡と出会うのです。花の甘い香りは空中に伝わって天に昇り、空中のすべてをまろやかに魅惑するのです。いたる所で、私は創造の不思議と威力を認識します。それは万物の上下、中、外部のいたる所に存在しているのです。地を這うコケ、ありふれた草の茎、巨大な樹木、花、草花、灌木、地のあらゆる植物が私に話しかけてきます。それらは、創造の善と愛、全能の知識を知り、畏敬をもって創造を崇拝しています。全自然は創造の寺院なのです。自然は、当然うやまわねばならない地球人に対して、畏敬をもってうやまっています。またこの自然のどの細部、最もわずかなものをもうやまい、創造の不思議から構成されるドームを讃美をもって愛し尊敬しているのです。 愛する友よ、これが、私が妖精の女王として、人間であるあなたに説明したかった事柄です。あなたは、これを更に地球人に教え、彼等がそこから学ぶようにしてあげなさい。 さあ、バラ色の水晶から生まれた美しい妖精の後に従ってください。彼女はあなたを地球人の住む世界に連れ戻ります。あなたは地球人の中にあっても異邦人であると感じています。何故なら、あなたの思考、行動、感覚、感情のすべてが、地球人のそれとは異なっており、あなたは痛みを感じているからです。 あなたは創造のすべての奇跡と全能をその眼で認識し、その中に啓示されている、すべての法則と掟、その尊敬すべき秩序にできるかぎり従って生きようと努力しています。さあ、私の愛する友よ、行きなさい。あなたの妖精に人間の住む世界へと連れていってもらいなさい。あなたがここで感じとった幸福と愛の感情が、長い間あなたの中に生きつづけますように。 あなたをここに連れてきたすべての道を飛んで戻らずに、横になって休み、眠りなさい。妖精が不思議なトンネルを通って、眠っている間にあなたを地上に連れ戻してくれるでしょう。そのトンネルは生き生きとした幸福と愛を、ずっとあなたの中で目覚めさせておいてくれるでしょう。さあ、眠りなさい。愛する友よ、お元気で。』 そうです。妖精の女王さまは、こう私に語ったのでした。女王様の最後の言葉を私はずっと遠くに聞きました。何故なら、女王様が、彼女の小さな魔法の杖で私の眼をそっと触れたために、私は次第に夢うつつになり、深く、すっかり深い眠りに入っていったからでした。私がその眠りから覚めたのは、ベッドの中でした。 地上に戻り、地球人の住む、この現実世界に戻ってきた時、私は妖精の女王様から聞いた話を更に伝えることになっていましたが、この物語をして、私は役目を果たしました。(完) ![]() 002 憧 れ の 夢 ---- 桜 の 木 それは私がバラ色の水晶から生まれた世にも美しい妖精と、夢の世界に6番目の旅をした時のことでした。私は見事に花咲き香るリラの林の下に、うとうとと夢心地で座っていました。 そして私はうっすらとまぶたを開け、ぼんやりと大きなバラ色の水晶を観察しました。 私は半ば夢見心地で、愛らしい妖精が現われ、私をどこか噺しい夢のメルヘンの世界に連れ去ってくれるよう願いました。ゆっくり、とてもゆっくりと、バラ色の水晶は私の目の前から消えていき、透明なバラ色になり、薄いバラ色のもやに、変容していきました。 遠く、ずっと遠くの方で、バラ色のもやの中から、優しいメロディーの和音が鳴り響き、現実の世界の最後の残りを拭い去り、もうーつの、別の世界--バラ色の水晶から生まれた夢のメルヘンの世界へと私を包んでいきました。優しいメロディーの和音と共に、私の素晴らしい妖精が漂い出て、私の手をそっと取り、午後の暖かい春の紺碧の空へと私を連れ去りました。私達は高く舞い上がり、白い雲の中に入っていきました。すると私達は突然6番目の夢のメルヘンの世界にいました。愛すべき妖精は私をスイスに舞い降ろしました。 スイスは、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリアに隣接し、ヨーロッパの中心部に位置しています。そこには雪で覆われた沢山の高峰が青空にそびえ、その頂上は遥かに雲の高さを凌いでいます。一方、そのずっと麓の方の渓谷や平地には、沢山の美しい湖や小川が流れ、一面に花咲く緑の野原、多くの草花や果樹の花々は、スイスの国に自ずと平和と安泰の息吹を漂わせているようでした。 この美しい国のどこかで、私は新しい夢のメルヘンを見、体験するはずでした。バラ色の水晶から生まれた美しい妖精は、私に言いました。その場所はヒンターシュミッドルッティとよばれている所であると・・・。美しく素晴らしい谷を越えた、ずっと向うの高い所で、人々はそこをトスタルと呼んでいます。又そこはドイツに近く、チューリッヒ州に属しています。私がヒンターシュミッドルッティにある大きな農場の広場に舞い降りた時、それは丁度春たけなわの頃でした。辺りは一面素晴らしい色とりどりの花が咲いていました。木々は新緑に輝き、何とも言えない香りを漂わせていました。まるで本当の夢のメルヘンの世界にだけあるような壮麗さでした。 いくらか脇に外れたヒンターシュミッドルッティの村に続く左側に、しかも建物からそう遠くない所に、勢い良く紺碧の空に枝を広げている巨大な桜の木が花咲いていました。花咲き匂う香りに包まれてそそり立つ桜の木は、暖かい春の風に優しくそよいでいました。ヒンターシュミッドルッティ農場に住んでいる、愛すベき、全ての人々に混ざり、私は長い間人目につかず、この素晴らしく美しい所に住んだのでした。そこはセムヤーゼ・シルバー・スター・センターと呼ばれていました。そうして私はそこで何年も昔の出来事を体験したのでした。その本来の源は、古い昔の伝説に由来していました・・・・。 大昔からある桜の木は、あまりにも巨大で、それと同じようなものは世界に殆ど無いと言える程でした。しかし、その桜の木があまりにも巨大であったのは、その桜の木が特別の木であったからでした。それは偉大な不思議な秘密を隠していたのでした。その秘密とはかつて、とてもとても美しい妖精が体験したものでした。妖精はこの木の下で、素晴らしい愛を知ったのでした。妖精はここで男の精に出合い、彼の深い不思議な愛の贈り物を受け取ったのでした・・・。 多くの人々は、このヒンターシュミッドルッティにある夢のメルヘンの桜の木は、古代の異邦人時代からのもので、異邦人の2人の男女が初めて真の愛をそれぞれに感じた為、その感謝と思い出の為にこの不思議な桜の木を、まだ本当に若木の時に大地に植え、それが何百年、何千年と経つにつれて、このような巨大な大木に成長したのだと伝えていました。この伝説は、もしかしたら誇張されたものであるかも知れません。 しかしこの桜の木が全く特別な木であり、不思議な、為になる秘密を持っていることは事実です。 何故なら、その桜の木は、愛すべき妖精に天命を授かったとも言われ、太古の両異邦人が若木の桜を大地に植えた、その愛の力に拠って独りでに大きくなったからだとも言われているからです。しかしどちらが本当のことでしようか。それでもやはり何かそこに真理があるのでしよう。この桜の木に関する特別な事情は、ヒンターシュミッドルッティの老いも若きも皆知っていたからです。ヒンターシュミッドルッティの住民、パシンケルと呼ばれる最も年少のおませさん、メトウザレム、又彼より3歳年長の兄アトランティス、彼よりももう3歳年長の姉ギルガメシァですら、不思議な桜の木の秘密を知っていたのでした・・・。 その伝説とは、一杯の花咲き薫る桜の木の下に横になり夢見る者は、必ずその夢が成就されるので、昔からこの木は憧れの夢の木と呼ばれている事でした。但し、たったーつ、条件が有り、夢に見たいと思う全く特別な願望が有る時には、誰もこの花咲く桜の木の下に横になってはいけないという事でした。つまり、この木の下に眠る時は、夢に描くことを決して考えてはいけないのでした。 それでも、そうしてしまったなら、人はただ不思議な訳の判らぬ夢を見るだけで、その夢はしばしば悪夢に終り、悪い運命を呼び起こすというものでした。つまり人は、倒錯した、下らない夢を夢見るだけであって、その夢により決して賢くなることは無く、悪いことをするだけだということでした。 この為、ヒンターシュミッドルッティの住民は、誰も憧れの夢の桜の木に関する不思議な物語をしませんでした。従って誰も、成就されるべき特定の夢や願望について意識的な思考をして、木の下に眠ることは無かったのです。又彼等は、皆この定められた条件を守ることは地球人にとって非常に難しく、決して簡単に成就されないことを知っていました。何故なら人々は、まだ多様な形で利己主義的な考え方をし、自分の利益だけを獲得しようとし、真の愛を持って多くの隣人の事を考えないからです。 人々は、そうするべきなのです。何故なら隣人達も又愛に喜び、調和、幸福の中で生活する事を望んでおり、創造が大いなる愛をもって全ての人類のために、又全ての植物と動物のために、それを定めたのですから。さて、そう言う訳で、ヒンターシュミッドルッティの住民達は、不思議な憧れの夢の桜の木の秘密について沈黙し通したのでした。又近くの村ではほんの僅かの住民しか、この古い秘密について知っていませんでした。彼等は皆、多くの人々は好奇心が強いので、不思議な木に関する重大事を教えてはならないと、沈黙をしたのでした。 これらの好奇心の為に、昔ヒンターシュミッドルッティに住む多くの住民はその木の下に眠り、大抵は良く熟慮もせず、物質的な夢によって富を得ようとしたのでした。しかしそれはもうずっと昔のことで、どんな夢も実現されませんでした。と言うのは、条件が満たされていず、いつも破られたからでした。その為、ヒンターシュミッドルッティの住民以外は、間もなく皆憧れの夢の桜の木に纏わる伝説は単なる美しいメルヘンでしかない、それは小さな子供達のために創作されたものにすぎないと考える様になったのでした。 こうして付近の村の人々は誰一人として、もはや愛すべき妖精によって吹き込まれた、不思議な力を持つ桜の木のことは信じなくなっていました。男も女もこの古い伝説を真理だとは思いませんでした。時々、まだ新鮮で非物質的思考をする子供だけが、木の下に横になり居眠りをし、彼等の夢を成就させたのでした。しかしこれらの子供達は、この世界や生命の神秘をまだ理解しませんでしたから、彼等に起きていることが何 であるのか、決して明らかになりませんでした。彼等は成長すると、物質主義と利己主義によって思考が曇らされた大人と同じように、話すのでした そして大人達と同じように、こんな風にしておしゃべりをするのでした。「凄い、不思議だ。一体どうしてこの桜の木に不思議を行うための知恵が与えられ、備えられているのだろう。」しかし人々は、その無理解のゆえにそう話しあったのですが、憧れの夢の桜の木に関しては、やっぱりその力は正しかったのでした・・・・・・。 私がヒンターシュミッドルッティにあるセムヤーゼ・シルバー・スター・センターの建物から、紺碧の空に漂う白い雲間を眺め見たのは、美しい春の或る日のことでした。バラ色の水晶から生まれた世にも美しい妖精が、私をこの夢のメルヘンの世界に連れて来てくれたのでした。 暖かい春の微風が花咲く丘陵を通り抜けると、太陽の光線がいくらか和らぎ、とても心地良い外気に包まれる日のことでした。その時、丁度若者がモミの森の中にある建物から出てきて、耕作地の道に沿って疲れた足取りで歩いているのが見えました。その道はそこからヒンターシュミッドルッティに続いていました。若者は長い間丘陵を歩き回り、すっかり疲れきっていました。 そして彼は、外国での厳しい年月のことを一挙に瞑想していたのでした。彼は外国の地で一生懸命働かねばならず、それはしばしば彼にとって全く辛く厳しいものでした。それでも彼は何の富も築くことは出来なかったのでした。愛すべき乙女を見つけ、彼女と夫婦の絆を結び、愛の有る家庭を築くことさえ出来ませんでした。この旅職人の名はルイスと言い、ヒンターシュミッドルッティに辿り着いた時、彼はもう一度財布をひっくり返してみたのですが、それは皆空っぽで何も入っていませんでした。そこで彼は、一体こんな状態で何が出来るだろうかと思いました。 突き刺すような空腹を押さえる為に、木の下で何かの果物を拾う事さえで来ませんでした。まだ春になったばかりで、木々には花ばかりだったからです。結局最後には死んだように疲れ、お金も無く、誰も彼を迎え、宿を貸してくれる人もいないだろうと考えるばかりでした。家々を廻って物乞いをする乞食にはなりたくありませんでした。彼はこの仕事は、最も難しい仕事だと考えていたからでした。こうして彼は深く物思いに沈み、道を進みヒンターシュミッドルッティの建物の側を疲れた足取りで通り過ぎました。 その庭に腰掛け、親しげに挨拶の言葉を掛け、ちょっとしたおやつの時間をすごしている人々にも気付きませんでした。こうして庭の広場も過ぎ少し行くと、彼は丘陵の傾斜に今を盛りと花咲いている桜の木を見たのでした。彼は桜の木の下の草の上に横になり十分眠り、新しい力を得よう、そして再び元気を回復して勇気を持って自分の道を進もうと、ふっと考えました。思い付いたらすぐに行動しました。 急いでルイスは道からそれ、通りのへりをよじ登り桜の木の下に来ました。そこで彼は緑の草叢に横たわり目を閉じました。が、彼を苦しめている、突き刺すような空腹を疲れた思いで考えていました。深い眠りに陥る前に、又、夢が彼の内に目覚める前に、ただ無意識の内に桜の木がどこか風変わりで、神秘的なささやきを始めたことに気付いたのでした。そして美しい夢が彼の内に咲きました。 彼は桜の木がその稀に不思議なそよめきの音を高め、どうしてその枝をそっとゆすったか、もう気付きませんでした。そうして時にはあちら、時にはこちらとまぶしく輝く太陽の光りが落ち、時にはあちら、時にはこちらと午後の小さな青空の断片が鈍い光りを放ち、枝の間から差し込んで彼の顔を包みました。又、彼は訳も判らずに三つの桜の花びらが咲いている小枝を折ったことも、そしてそれが真っ直ぐ胸に落ち、そこに載ったままであったことにも気付きませんでした。このような事になった時、不思議な夢は変化し、はっきりとした夢となって彼の内に止まったのでした。その夢とはこうでした。 彼は居心地の良い部屋の椅子に腰掛けていました。その机も部屋も、全家屋も、彼の財産として彼の所有であるかのように見えました。又若くきれいな妻がいるようでした。彼女は彼の隣で机の側に立ち、両手でテーブルの縁を支え、彼を愛情深く見詰めていました。彼の膝の上には赤ん坊が座っています。彼等2人の子供でした。彼はその赤ん坊にお粥を与えていました。サジに粥を一杯すくうごとに、それがまだ熱いので、まず自分の口でそれを醒ましてから与えていたのでした。なるほどこうして彼ルイスは、花咲く桜の木の下で、夢の中で彼の望みを夢見たのでした。それに彼は若く美しい妻の声すら聞いたのでした。 彼女はエバという名前であることが、どこからともなく突然判りました。「貴方は本当に何でも出来るのね。貴方は本当にとても良いパパだわ。」そして彼女は心から微笑みました。まるで部屋中が徽笑んでいる様でした。すべては喜びと愛の洗礼を受けているようでした。しかし、ルイスはまだ更に夢見続けました。彼はもう一人の愛らしい坊やを見ました。坊やは部屋の中を走り回り、ふっくらとした頬をして、父親に瓜二つでした。彼は金属性の皿を紐で縛り、頭の高さに放り上げ、それを旋回ざせていました。この遊びはよく少年達がしているものです。 これらルイスが夢見たものは、全てとっても彼に気に入ったに違い有りませんでした。何故なら眠っている時の彼の顔には、愉快そうな喜びの笑顔が浮かんでいたからです一やっと若者が目覚めた時には、もう3時間以上過ぎて夕方近くなっていました。太陽は西に沈みかけていました。彼は余り長く眠ってしまったので、いくらか驚いてしまいましたが元気を取り戻し、大きく深呼吸しながら背伸びをし、大きな声で独り言を言いました。 「さあ、とても良い夢を見た。今の私は夢のようではないけど、少なくともそれは実現可能なことだ。」そうして彼は今見たばかりの夢のことを考えたのでした。彼はまだ眠り夢を見ていた時から、既にヒンターシュミッドルッティの小さな住民パシンケルが彼の隣に座っていることに気付きませんでした。さてそこで、手を上げ背伸びをし、更に若者の独り言を聞いた6歳の坊やは、この若者にこう尋ねたのでした。ルイスは一体どこから来て、どこに行くつもりなのか、彼の感嘆は何を意味したのか、彼はまだ一度も桜の木の話を聞いたことが無いのかと。 勿論この若者は、この不思議な木については何も聞いた事がありませんでした。この見知らぬ男の人は本当にこの木について身に覚えが無く、あどけない子供の様であると知ったパシンケルは、思わず声を押さえてしまいました。「おやまあ、叔父さんは本当に幸運児だね。おじさんはきっと素敵な良い夢を見ていたんだね。おじさんの顔に書いてあるよ。僕はもうずっと長い間、ここに座っておじさんの眠っている様子を見ていたんだ。そしておじさんの鼻の上に止まろうとしたスズメバチを追っぱらってやったよ。」それからパシンケルはこの見知らぬ若者ルイスに、桜の木にまつわる不思義な出来事を話してあげたのでした。大人びた、ませた口調で話す事が、彼には一向に構わないと言う様でした。それからパシンケルは言いました。 「おじさんは本当に果報な奴だ。何故ってあんたが夢を見たことは、実現するからさ。それはきっと本当のことになるな。僕がパシンケルであって、導き神でないごとく、それは確実な事だよ。ここに住んでいる人達や村の人々に、僕が正しいか正しくないか聞いてもらってもいいよ。彼等は口を揃えて僕がメルヘンを話したのではないと言うよ。だけどさあ、どんな夢を見たの?」「いやなに、」とルイスは賢いおませな子供ににんまりと笑いかけました。 「人はそうして、農夫や愚かものに根掘り葉掘り聞くが、僕は絶対に言わないよ。僕は僕の見た夢を僕だけの心にしまっておく。悪く思わないでくれ。お前が僕に話した事が真実なら、それを僕は公言したくないんだ。夢に見たことが、皆成就するかどうか、又お前の言った事が本当かどうかは今にわかるさ。だから僕は言わない。僕の見た夢が、お前の言った通りに実現したかどうかは、後で判るし、知るだろう。そうだろう、お前?」ルイスは単純な意味でそれを言ったのではなく、本気でそう考えていました。と言うのは、更にルイスがヒンターシュミッドルッティに向かう時に、こんな独り言を言ったからでした。 「もし僕の夢が実現したら、絶対にヒンターシュミッドルッティの小さな友達を尋ねて、僕の身に起きたことを話そう。しかしそんなことがどうしてあり得ようか?この桜の木は、夢や願い事を実現し、それを本当の事にさせる知恵を、一体どこから得るのだろうか?」若者が村に入ると、通りの端にある村の3番目の家が見えました。その家は「フライホーフ」と言う名の旅館でした。屋外に並ベてある、レストランのテーブルの椅子に、フライホーフの主人が丁度良い機嫌で座っていました。夕食を取ったばかりの時だったので、世の中が全く平和に見え、何にも考えずに呑気な気分になっていたのでした。 旅職人のルイスは、直感的にすぐにそれを見て取ったのでした。そこで彼はいんぎんに帽子を脱ぎ宿の主人に、全く無一文の旅職人に、一晩宿を貸してくれないかと尋ねたのでした。宿の主人は若者を上から下まで見やりました。かなりこざっぱりとした風体をしていましたが、古くなり破れた着物は、彼が地上の財産には全く縁の無い人間であることを物語っていました。満腹から来る満足感故に、宿の主人は若者に親切そうにうなづき、こう言いました。 「いいともさ。さあ、こっちに来て腰掛なさい。まだ何か夕食の残りや飲みものが有るだろう。その内に私の娘が夜具を整えてくれるだろう。そうすれば君は手足を伸ばしてゆっくり眠ることが出来る。」そう言うと主人は若者の所を去り、上に入って行き、娘に旅人の世話をするようにと命じたのでした。父の言い付けに従った娘は、旅職人ルイスに十分な夕食とまだ半分残っているワインのビンを1本持ってきて、彼に旅遍歴の話を語らせたのでした。その後で彼女は若者に、村に由来している出来事など全てを説明してあげたのでした。又彼女は農夫達の仕事がどの様に為され、宿がどんなふうか新年の舞踊には何でも演奏される事など、多くの事を話してあげたのでした。そして宿の主人の娘は突然話を止め、興味深そうにルイスの帽子を眺め、そして尋ねました。 「一体貴方の帽子に挿さっている3つの桜の花はどうしたの?」そこで初めて若者は眠りから醒めた時、胸の上に見つけた桜の花の枝の事を思い出しました。「あっ」と若者は言いました。「僕は此処から余り遠くない桜の木の下に横になり眠っていたんだ。すると木からこの枝が胸の上に落ちていたので、それを帽子に挿したんだよ。僕にはそれが気に入ったからね。」娘は面白そうにじっと若者の話に聞き入りました。そして明らかに若者が更に話を続けるのを待ち望んでいたのでした。しかし若者は黙り、眠っている時に何が起きたか、細かな内容を少しも話そうとしなかったのでした。そこで娘はとても用心深く、本当に憧れの桜の木の下で眠ったのか、それをはっきりさせるまで探り始めたのでした。 若者は話を出し惜しみ、娘はやっと若者がその桜の木の珍しい不思議な力を何も知らずに眠ったことを確かめたのでした。ここまで探るのは大変でした。と言うのは、この若者がひょうきん者で、その桜の木の伝説を何も知らないかのように振る舞ったからでした。その事で娘が思案していると、丁度そこにヒンターシュミッドルッティのパシンケルが何かお使いを頼まれて、それを受け取るため宿まで走ってきたのでした。少年が屋外に出ている宿のレストランに着き、宿の娘が余所の若者とお喋りしているのを見ると、おませなちびっ子はさっそく来てこう言ったのでした。 「ねえ、エバ。この若い衆は憧れの夢の桜の木の下で、どんな素敵な夢を見たか、もう話してくれた?そしたら僕にも教えてね。」と言いながら小さなおませさんは、用事を済ます為に家の中に入って行きました。その為突然宿の娘エバは、余計好奇心が募りました。若者は更に沈黙を続け、自分からは何が起きたか、絶対に教えようとしないので、彼女はもう我慢し切れなくなり、若者に面と向かって尋ねてしまいました。 一体桜の木の下に横になり、眠っている間、どんな夢を見たのかと。宿の娘エバは本当に愛らしく、彼女の愉快な笑顔が若者の心を喜ばせました。若者は素敵な夢のお陰でうきうきした酷く幸福な気分になっていたので、茶めっ気たっぷりに、そして子細ありげな分別顔をし、陽気にこう言ったのでした。「全く素晴らしい夢を僕は見たんだ。それは本当だよ。だけど僕はどんな風であったか、君に話す勇気が無いことを白状しなければならない」 宿の娘エバは、その為、余計に奸奇心を持ち始め、もっともっと若者に話すように迫ったのでした。若者は美しい娘の無邪気な好奇心に益々心を喜ばせたのでした。彼の心はとうとう、やっぱり夢を打ち明け、彼女にそれを話してあげようと思うに至ったのでした。そこで彼は一気に娘を信用して娘の側により、真面目な顔をしてこう言ったのでした。 「僕は本当に夢を見たんだ。 いつか僕はフライホーフの娘さんと結婚し、やがてこの旅館の主人となるんだ。まあそれが僕の見た夢さ。」それを聞いたエバは、はじめ顔面蒼白になり、それから真っ赤になり、そして又真っ白になりました。それから突然娘は家の中に駆け込みましたが、しばらくすると又外に出て来て、若者に尋ねたのでした。若者の見た夢は本当に真理に基づくものか、本当に説明した通りのことを夢見たか、彼が話したことは皆本気なのかと。 「本当に全くその通り、全くその通り。」と彼は誓いました。「正に君のような娘が桜の木の下で見た僕の夢に現われたんだよ。」彼はこう言うと、まず第一に自分の言った事が冗談ではなく真理であることに気付いたのでした。何故ならこの時、宿の娘が何と本当にエバと言い夢の中で彼の妻となった少女にそっくりである事に気付いたからでした。そのことに驚いた彼は、それでもこれはただの偶然にすぎない、又この少女エバと夢の中に現われた彼の妻エバが同一人物であると、後から単純に想像してしまっただけなのだと独り言を言ったのでした。又、これは彼が、全く宿の娘エバの無邪気に引かれ、一瞬のうちに彼女を心から愛してしまったからに違い無いと思ったのでした。若者が彼女に答えた後は、エバはすぐに又走り去ること無く、彼にこう言ったのでした。 この彼の見た夢は、いつかの昔に見た夢ではなかったのか、ただ彼女をからかって言っているのではないかと・・・・。 だからヒンターシュミッドルッティに戻り、そこでメルヘンの洞窟の有る小さな魔法の池を見つけたら、そこにバラ色の水晶が有るから、その池の前に座り、彼の思考をその水晶に向けて集中するようにと・・・・。その後、何が起こるか彼の夢が現実の事となるか、彼には判るだろう。そうするまではここに再び戻って来ないようにと・・・。そして少女は自分の部屋に走っていったのでした。いろいろな思いが池の上に流れ来る激しい水のように心を揺さぶりました。絶えずエバは同じ考えを持っていたかと思うと、又別の考えに捕らわれ、混乱しては再び元の地点に戻るのでした。 彼は本当に後で桜の木の秘密を知ったのだ。それ迄はほんのこれっぽっちもその秘密について知らなかったのだ。だから彼は決して誤って何か利己主義的、物質的な願望や期待を描くことは出来ないはずだ・・・と。「本当にあの男は木の下で夢を見たのだわ。私が望もうと望むまいと夢は実現しなければならないのだわ。つまり全てが夢の通りになり私にはそれを変える事は出来ないのだわ」こうして少女は眠り、一晩中このよそ者である若者の夢を見たのでした。 翌朝目覚めたエバは、彼の顔を正確に知っていました。おまけにはっきりと細かな所まで覚えていたのでした。彼女は夜、夢の中で何回も若者の夢を見、はっきりと心に刻み込んでしまったからでした。目覚めた彼女は、この若者が本当に彼女に惚れ込んでいること、彼女も真に心から彼を愛していることが判ったのでした。彼女の心は突然軽くなり、もうすぐ結婚式が上げられることを喜んだのでした。エバが眠り夢を見ている間、若い旅職人はヒンターシュミッドルッティに戻りました。 そこで花咲く桜の木からあまり遠くない所に、メルヘンの洞窟の有る小さな池を見つけたのでした。その時若者は、桜の木にまつわる伝説が本当である事を少しも信じなかったごとく、エバがメルヘンの洞窟の中に有るバラ色の水晶について説明した事も、全く信じていませんでした。若者はむしろ此処の人々がどこか気違いじみており、迷信深いのだと思っていました。彼が月明かりに照らされ、そこに腰掛たのは、少女エバのことが頭から離れず、彼女を一目で心から愛してしまい、彼の内にこの少女に対する不思議な感情が湧きあがったからでした。彼はその気持をどうしても押さえることが出来なかったのでした。 そうして彼はメランコリックに少女に想いを馳せ、一方では無意識のうちにメルヘンの洞窟の中に有るというバラ色の水晶を真っ直に見詰めていました。それは洞窟の中で、メルヘンの世界のような、どこか不思議な微光を放って輝いていました。彼は水晶がゆっくりと微光を放ち大きく広がり、透明になっていくのをぼんやりと見ていました。そして彼は次第にバラ色のモヤの中に溶け込んでいったのでした。そのモヤは間もなくメルヘンの洞窟一杯に広がり、池の水を排出し、若者の心を溶かしたのでした。そうしていつの間にか、彼は麻酔にかかったようにぼおっとして感覚を失ってしまい、水の中に倒れてしまいました。 彼は驚いて声を上げようとしたのですが、その瞬間そっと誰かが優しく彼の肩に手を置くのを感じました。そして優しくこう言うのを聞いたのです。「怖がってはいけません。何も貴方に悪いことはしませんから。」若者はびっくりして辺りを見回しました。そして夜にも美しい少女が彼の肩に手をかざし、彼と一緒にゆっくりと絶えず深く深く、細い水路を通り池の底に沈んでいくのに気付いたのでした。その時、突然この助け主が普通の少女ではなく、世にも美しい姿をした妖精であることが判ったのでした。妖精は長い銀色の髪をし、象牙色の体を軽やかにたなびかせていました。何という不思議なことでしよう。本当に何という不思議・・。彼は本当に妖精がいるなんて夢の中ですら考えたことがありませんでした。一体全体、今日という日は、何という不思議な一日だった事でしよう。 確かに彼は、憧れの夢の桜の木の下で眠っている時夢見たように、再び夢を見たのでした。彼が稀に快い夢を見たこの日は、何という不思議な日であった事でしよう。深く、深く、彼は光の流れ出る水路の中を妖精と一緒にどんどん深く沈んで行きました。そして水路は無くなり、そのずっと下の水晶の様に透明な水の中に独特な世界が開けたのでした。緑の丘、平地、山のある色鮮やかなけんらんたる海底のような所でした。光輝く深海花で一杯の広大な平地の真中には、まぶしく輝くお城が建っていました。純粋な光を放つ水晶のお城でした。 「ほら、あそこのお城に私は住んでいるの。」と妖精はほっそりした優しい声で言いました。「私はあそこに貴方を連れていき、私の母、水の女神と私の父、水の神に会わせます。彼等は水中と深海にある全ての世界を支配しています。そして彼等は夢のメルヘンの洞窟の池に住む全ての生命と、その全ての秘密と能力を持つ洞窟を保護する為に、私達妖精を選んだのです。両親が貴方に何かお話することがあるそうなので、私は貴方を彼等の所に連れていくのです。」「お好きなように。」と若い旅職人は言いました。「喜んでご一緒します。どっちみち今日は不思議な出来事ばかり僕の身に起こるのですから。」この若者の言葉に、妖精はグロッケンシュピール(鉄琴)のような明るく響く笑い声をあげました。 そして若者ルイスの肩をしっかりと支え、ゆっくりと明るく輝く城の入り口に舞い降り、さっと滑り抜けて2つの王座の有る大広間に降り立ったのでした。その王座には水の神とその妃の水の女神が座していました。銀色に輝く、星がよく見える水晶の周りには、沢山の見事に美しい妖精達が漂っていました。妖精達は水晶を禍巻かせ、銀色の微光をその中に撒き散らしていました。水の中は夜空に月が明るく輝き、何百万もの星がまばたいていました。「お前はルイス、若い旅職人だね。」と水の神は深く轟くような声で重々しく言いました。 「はい、確かに。」と若者は答えました。「一体どうして貴方がたは、私を此処に連れて来たのですか。私は魚ではないし、こんな所にいたら溺れてしまうでしよう。私達人間は、貴方がたのように、水中で生きることは出来ないのです」「それは私達も知っておる」と水の神は声を轟かせて言いました。「しかし、お前は溺れてはおらんではないか。私達の娘、つまりお前を此処に連れて来た妖精は、呪文を唱えお前の肩に触れる事により、水面下でも全く普通に呼吸が出来る様にしたのじや。ご覧、彼女がお前を夢のメルヘンの池に戻すまでは、お前は彼女の接触から逃れる事は出来ないのじや。でないとお前は死んでしまう。私の妻、水の女神がこれからお前に語ることを良くお聞きなさい。」水の神の深い声が鳴りやむと、今度は妻が語りました。それは夫の水の神の声より、1オクターブ高い声でした。 「ようこそ、私達の国へ御出で下さいました。私達が貴方を此処へ呼んだのは、貴方が夢のメルヘンの洞窟から余り遠くない所に有る、花咲く憧れの桜の木の下で見た、貴方の夢と願いが実現されることを告げるためでした。私達はあの桜の木の守護者でもあるのです。と言うのは、私達の娘である妖精が、彼女の望みに従って地上の妖精に変容し、そこでもう何千年も夫と一緒に暮らしています。彼女はそこで愛を獲得し幸福になりました。つまり、この愛のために彼女はあの憧れの夢の桜の木の下に秘密を与えたのです。その秘密とは、地上の善良な人間なら誰でも、その木の下に無心に横たわり、眠り、夢を見たなら、その真面目な夢と願望が叶うと言うものです。ですから、貴方はこの様にしてあの木の下で休み、夢を見たのです。貴方の夢は実現し、それは貴方を幸福にするでしょう。つまり、貴方は真剣に深い愛を持って、貴方のエバと結婚するでしょう。それと並んで、貴方の夢の中で見た別の夢も成就するでしょう。これを私は貴方に言っておかねばならなかったのです。さあ、それでは元の所に帰りなさい。私達の娘、妖精が貴方を案内します。それではお元気で。」 若者は水の女神とその夫の水の神に、愛想良く別れを告げました。妖精が再び彼と一緒に輝く城を出て、銀色の星の輝くような水の中を高く舞い上がりました。そのずっと上の方で、洞窟の入り口に至る空道が小さな太陽のように輝いて見えました。2人はそこを通り、間もなく夢のメルヘンの洞窟の前の、メルヘンの池滑り出ました。若者が水から頭を出すか出さぬうちに妖精は彼から手を離しました。その為、彼は急に禍巻く冷たい水の中に沈み込んだのでした。彼は、ハアハアと息を吐き、急いで高く手を伸ばし、岸に這い上がりました。そこで彼はくたくたになって草地に倒れ込み、その時、パット目が覚めたのでした。 まだ夢うつつで、一体これは夢なのが現実なのか判らない・・・と言った様子の若者は起き上がり、宿の方に戻っていきました。彼はそこで自分のために用意された部屋に戻り、ぐっすりと深い眠りに就いたのでした。朝になり、若者は不思議に満ちた眠りの後、元気一杯に目覚めました。メルヘンの国に有るような水中のお城での体験も、憧れの夢の桜の木の下で見た夢も、もうとっくに忘れていました。又、咋夕宿の娘が説明したことも皆すっかり忘れていました。 ただ、宿の娘に対する愛のみは、はっきり記憶されていましたので、急いで次ぎの町でしっかりした職を捜し、仕事を見つけて再び此処に戻ってくる決心をしたのでした。彼はどうしてもエバと結婚したいと思っていたからです。彼はエバを深く心から愛してしまっていました。そしてやがて彼は、親切なもてなしを宿の主人に感謝し、別れの握手をしました。丁度その時でした。きれいなエバが入ってきて、旅立ちの支度の整った若者を見たのでした。 その時、娘の心に一種独特な不思議な不安が襲い、エバはルイスと別れたくないと思ったのでした。それからエバはこう言いました。「その若者を此処に置いてあげて。私達のお手伝いさんは引っ越ししてしまったし、丁度私達には手伝いが必要ではないの。その人は昨日私に話してくれたけれど、何も当てが無いのだわ。彼が此処にいれば本当に私達は助かるし、役に立ってくれると思うの」フライホーフの主人は、それに対して何も反対しませんでした。特に宿の主人は、既に朝のコーヒーを飲みおわり、たっぷり朝食を取ったばかりでしたから、いつものように上機嫌で楽しい一時を過ごしていたのでした。 こうして旅職人は旅館に留まり、満足な仕事をしたので、すぐに無くてはならない存在になりました。こうして何週閘かが過ぎました。その間、少女は毎晩旅職人ルイスの夢を見ました。又その反対に、若者も少女エバの夢を毎晩見たのでした。そうして2人は間もなく、森の外れの屋外の食堂に、夕方肩を寄せあって語らうようになったのでした。そこで彼は如何に数多くの辛い思いを、広いよその世界でしなければならなかったか、彼女にその話をしたのでした。するとその度に、目に見えないほこりや気付かない程の何かが目に入ったり、ブロンドの髪の毛が眼に入ったと言って、突然彼女は眼をこすったり、しばたいたりしたのでした。 6か月経っても若い旅職人はまだ旅館に留まり、熱心に働いていました。又皆からもとても彼は愛されました。7か月後には村中あげての祭りが催されました。若い旅職人と旅館の娘エバー一そうです、彼の夢に見たエバとの結婚式が催されたのでした。全ての人々が大喜びでした。ただ僅かの人々が喜んでくれなかったのでしたが・・・・・というのは、美しく愛すべきエバを自分の妻にし損なった嫉みや達でした。幸福な結婚式が終り2か月過ぎ、真実にはエバの養父であったフライホーフの主人が、満腹の後でいつも味わう、満足の時間の終る時が訪れたのでした。主人は膝の上で新聞を両手で持ち客間の安楽椅子で眠っていました。皆が就寝しようと思い、ルイスは主人を起こそうとしました。しかしフライホーフの主人は、身体をそこに残したまま、足音も立てずに客間を去っていたのでした。簡単に行ってしまったのでした。一一単純な死でしたー一完全な死でした。そこには誰も主人の後を取る者は無かったので、ルイスがフライホーフの主人となりました。彼がヒンターシュミッドルッティの憧れの桜の木の下で眠った後、この事をからかい半分で愛するエバに話した、その通りになったのでした。 こうして水の女神と水の神が言ったことも起こり、全てが真実となったの でした。間もなく彼には2人の子供が生まれました。時々彼は子供達を膝の上に乗せ、子供達に食べものが熱いときには、サジの中のおかゆを口でさましてあげてから食べさせてあげるのでした。又、子供達が金属皿に紐を結び付け、顔の周りを、弧を描かせ飛ばしているのでした。---子供達は良くこうして遊ぶのです・・・・・・。こうして何年も過ぎた或る日、フライホーフの主人が客間に座っていました。そこに彼の妻エバが入ってきてこう言ったのでした。 彼等の子供達の一人が、憧れの夢の桜の木の下に横になり、もうすぐ幸福な結婚をする夢を見たので、結婚式の準備をする時が来たと。すると彼女の夫は大声で笑い、こう言ったのでした。「一体どうしてお前はあんな愚かな伝説を信じるのだい。一度良く考えてご覧。どうして木が秘密を隠し、人間の将来について何かを定めることが出来ようか。確かにあの木は全く美しい。どっしりとしていて、とても古い木だ。しかし人間の将来なんて絶対にきめられないもんだよ。」エバはびっくりして目を見開き夫を驚き見たのでした。そして美しく可愛いい頭を振り、真顔でこう言ったのでした。 「どうして貴方はそんな事が言えるの。冗談を仰有ってはいけないわ。」「冗談なんかではないよ、お前。僕は本気だ。」と彼は答えました。一瞬びっくりして妻は黙り込んでしまいました。彼女には夫の言っていることが判らないと言った風でした。しかし彼女は答えたのでした。 「あの木のことをそんな風に言うなんて、貴方こそ古い桜の木に感謝する尤もな理由が有るはずだわ。貴方が20年前に夢見たことは、皆その通りに実現したではないの。」すると夫のルイスは世界で最も優い顔をして、こう答えたのでした。「おやまあ、私がどんなに感謝しているか、誰も知らんのだよ。それは皆、ただの美しい不思議な夢だったのさ。まるで咋日の夢のごとく、僕は今だにそれをはっきりと覚えているよ。しかしそれはやっぱりただの夢だったのさ。それに今の生活の方が、夢で見たより、何倍も素晴らしい。お前も私が夢で見たエバより何千倍も美しく可愛いく、愛らしいよ。」「だけど貴方が私と結婚し、新しいフライホーフの主人になるって夢見たことは、考えるべきことだわ。」 「いや、違うんだよ。」と夫は慈しみ深く笑いました。「僕は決してそんな夢は見ていないよ。ただ僕は、若くてとても可愛らしい女性が、僕と2人の子供達と部屋に座っているのを夢に見ただけさ。そして僕がどうやって子供達に食事を上げ、他の子供達がどのようにして遊んでいるか、その夢を見ただけなんだよ。」「ええ、そんなはずはないわ。」とエバはワッと泣きだしてしまいました。「貴方は突然私を欺すつもりなのね。あの桜の木の事も、夢のメルヘンの国の事も。貴方は私達が初めて出合った最初の日に、私にこう言ったわ。貴方は私と結婚して新しいフライホーフの主人になる夢を見たと。」すると夫ルイスは、あの時話した冗談を、長年を経て初めて再び思い浮かべたのでした。それは20年前に現在の妻と許しあった冗談でした。 その為彼は妻に告白したのでした。「愛する妻エバ、それは、本当は僕達の役には何も立っていないのだよ。本当は、僕はあの時フライホーフの主人になることも夢に見なかったし、夢の中の少女が君になることも信じてはいなかったんだよ。だけど君はあの時、とっても好奇心を持って知りたがっていたから、冗談を言って君をからかってみたんだよ。」これを聞いた妻は激しく泣きだし、そこから飛び出していってしまいました。かなりの時間が経ってから、彼は妻の後を追いました。彼女はヒンターシュミッドルッティの桜の本の下に座っていました。 桜の木は丁度今年の新芽を吹き出した所でした。エバはまだ泣いていました。彼は彼女を慰め様としましたが無駄でした。「私の真心からの愛を、貴方は奪ってしまったわ、ルイス。」と彼女はすすり泣きながら言いました。「貴方は私の心を欺いたわ。もう私は決して二度と喜ぶ事は出来ないわ」「だけど、お前は僕を本当に愛していたのでは無かったのか。」と彼はがっかりしてエバに尋ねたのでした。「世界中の誰よりも僕を愛していたのではなかったのかい。僕と過ごした歳月は満足で幸福ではなかったのかい。」 「もちろん確かに満足で幸福ではあったけれども」と彼女は言いました。しかしどんな慰めと愛にも拘らず、彼女は相変らずとても悲観していました。そこでルイスは仕方なく彼女を思いきり泣かせ、一晩経った翌朝には、又昔のエバに戻るだろうと考えたのでした。ところが彼の推測は全く失望に値するもので、妻は翌朝は泣いてはいませんでしたが、酷く真剣な顔をして彼を避けるばかりだったのです。妻を慰め、一切のことをもう一度説明しようとしましたが、そのどんな試みも無駄でした。彼女にはヒンターシュミッドルッティの端にあるゆっくりと花咲き始めた桜の木の下に座る日々が多くなって来ましたが、ルイスが近づこうとするといつも彼女はお恐ろしげにギョッとするのでした。エバのこうした態度は何週間も続き、それは更に酷くなる一方でした。 少しの変化も現われないのでルイスは大きな悲しみと落胆に襲われました。彼は妻の愛を永遠に破壊し失ってしまったのではないかと本当に恐れたのでした。彼は黙って一日の仕事を終え、深く自分の内(心)に帰り対策を講じたのでした。しかし、彼の頭には何も良い考えは浮かんで来ませんでした。そして夫ルイスは、いつか平安を失い、野原を越え、畑を越え、森を越えてさ迷い歩いていたのでした。全て何をしても彼は救われませんでした。気持が塞ぐばかりで、彼の心もその思いも病むばかりでした。彼は辛い思いを抱いて思わず知らぬ間にヒンターシュミッドルッティに足を運びました。そして突然今や花盛りの桜の木の前に来たのでした。桜の木は全ての木々の中の王様のように青空に高くそびえていました。 そしてこの桜の木の巨大な大枝や小枝だが、彼を昔から知っている愛すべき親友を呼んでいるようにー一彼に目配せしているように見えました。そこで彼は当時20年前に道端を登ったようにしてそこを這い上がり、桜の木の縁の小枝の下に辿り着き、草原に横たわったのでした。そして彼は昔のことを考え、それ以来彼の身に起きた出来事に思いを馳せたのでした。 それは丁度20年前のことでした。あの時、彼は初めて貧しい旅職人としてこの巨大な桜の木の下に横たわり、そこに眠り、夢を見たのでした。そしてすぐに勇気を得、活発になったのでした。殆ど全く20年間続いたこの夢は、今どうなってしまうのだろう--余りにも美しかった今迄の日々は、もうこれで終りなのだろうか。そんなことが本当であるはずが無い。どうしてあの時、ひどく浮き浮きした活発さの中で、エバに冗談にも真理にそぐわない夢物語を話してしまったのだろうか・・・・こんな事をルイスが考えていると、花咲く桜の木は再び勢い良くそよぎ始めたのでした。丁度20年前の、あの時のように・・・・。 桜の木はその力強い大枝や小枝を揺さぶり、時折優しく輝く太陽の光を通過させ、時にはこちら、時にはあちらと紺碧色の空のほんの一部を輝かせるのでした。するとルイスの心は落ち着き、憂いも治まり、彼は自由な気持になれました。ゆっくりと彼のまぶたが落ちてきて、彼は眠りに入っていきました。過ぎ去った夜な夜な眠らなかった訳ではありませんでしたが、おそらく失われたと思われる妻の愛の為に、ひどく打ちのめされていたので、とても疲れていたのでした。そうして深い眠りに入り、彼は間もなく心配から解放されたのでした。--少なくとも眠っている聞は・・・・。 すると何と又もや20年前と同じ夢を見たのでした。夢の中には妻がテーブルにつき、今ではよく知っている、愛すべき2人の子供達が出てきました。それは彼のよく知っている家族の顔でした。その時の妻エバは、とても愛に満ちた優しい顔をして彼を見詰めました。その顔が余りにも優しかったので突然彼は息の詰まる思いがする程でした。こうして息の詰まる思いをした途端目の覚めた彼は、全てがただの夢であったことが判り、益々以前にも増して悲しくなったのでした。 彼は底知れぬ悲しみに襲われ、無意織に桜の小枝を折りました。その時、又三つの花が枝に咲いていることに気が付きませんでした。家に戻った彼は、そっとその小枝を衣装タンスの中に有るワイシャツの上に置き、それから横になり眠ったのでした。次ぎの朝--それは丁度日曜日でした。エバはルイスの為にタンスから新しいワイシャツを取り出しました。すると申しあわせてあった毎く花咲く桜の小枝が床に落ちました。側に立っていた夫は、ばつが悪そうに顔を赤らめ、急いで腰をかがめ、それを拾うとさっとその小枝を隠してしまいました。しかし全てを有りの儘見た妻は、小枝の出来事について尋ねたのでした。 「僕は憧れの夢の桜の木の大枝から、これを折ったんだよ。」と夫は答えました。「桜の木の方が君より余程僕にたいして優しいよ。つまり僕は咋日物思いに沈み、外に出て桜の木の下に座ったのだよ。そこで僕は眠り込んでしまい、かつて君を知り、君を愛し始め、それから結婚する前の20年前に夢見たのと同じ夢を、又見たんだよ。古い桜の木は僕がその木の下に座った時、僕を慰め様としたんだ。新しい夢の中では、君が又僕に対して優しくなり、全てを忘れているようだった。しかし今の現実は全く違う。みんな嘘だ。今度もみんなただの夢さ--とても美しいが、それでもただの夢なのさ。古い桜の木の話は何でもないんだ。全くの出鱈目だ。桜の木はなるほど随分古い木で、見事な美しい花を咲かせ、誇り高い。しかし人間の将来や生活のことなど、本当に何も知らないんだ。どうして桜の木がどのような知恵を持ち、おまけにそれを人間に目覚めさせることが出来ようか?」 この夫の言葉を聞いた妻は、驚いて彼を凝視したのでした。それから彼女の顔はまぶしい太陽の光のように輝いたのでした。夫が彼女の気持を打ちのめすような告白をする前には、いつもエバの顔はそのように輝いていたのでした。それから彼女はすっかり感激してこう尋ねたのでした。「ルイス、貴方は本当にそんな夢を見たの?今度こそは本当のことを言っているのね」「もちろん本当のことだよ。」と彼は答えました。そして夫の夢が真実であることを妻は知ったのでした。彼の顔が稲妻が走るようにけいれんしたからでした。夫は心の中で泣いていたのを妻に知られたくはありませんでした。 「貴方は本当に貴方の妻として、私を今度の夢の中で見たのね。」と彼女はもう一度ルイスに尋ねたのでした。「もちろんさ。」と彼は苛まれるように言ったのでした。すると妻は夫の首に抱き付きキスをしたので、彼も彼女を抱き締めました。エバはすっかり心変わりし、喜びで興奮してしまっているのでした。「此の世の幸せに讃えあれだわ。」と彼女は喜んで言いました。「ついに全てが皆元通りになったわ。私がどんなに貴方を愛しているか、貴方には決して判らないでしよう。それ程私は貴方を愛しています。過ぎ去った何週間と言うもの、毎日私は恐ろしい不安に悩まされていたの。一体貴方を本当に愛して良いものか、それともまだやっぱり私には別の定められた男性がいたのかと。けれどやっぱり私の言った通りだわ。貴方は確かに私の心を盗んでしまった夢見る人。いずれにしても貴方としてはいくらか嘘を付いていたのに違い無いけれど、確かに貴方は私の心を盗んでしまった。だけど今の私には判るの。そうしても決して貴方の投には立たなかったこと、そしてどっちみちこのようになったことが。だって私達2人は本当に愛し合っているのですもの。」 こう言ってから彼女はしばらく黙り、又話を続けました。「もう決して貴方は、誠実な古い桜の木の事を悪く言うことは無いと思うわ。その桜の木はやっぱり妖精によって秘密の魔法がかけられていること、そしてその木の下に無心に横たわり、願い事を夢見る人々の真面目な夢は、何でも叶えられるのだわ。」「うん、もう絶対に桜の木を悪く言わないよ。何故なら今の僕はこの桜の木を信じているからね。多分君の信仰とは違うものかも知れないけど、愛するエバ。だけど僕は君と同じ位、堅くそう信じているよ。君はこのことを信頼して良い。ここにある桜の木から取った花咲く小枝を、僕達の寝台の上に飾っておこう。それが無くならないようにしっかりと。そしていつも憧れの夢の桜の木が僕達の側に有るように。そしてその桜の木がもっと多くの人々に愛と幸福をもたらすように。彼等の夢が成就することによってね・・・・・。」 ビリー著 (「水晶」から転載) ![]() |